その男、激震!(38)

「なんだとぉおおっ!」

今にも勇一に殴りかかりそうな大喜を佐々木が止めた。

「落ち着け、ダイダイ」
「落ち着いてられるかっ。放せ、オッサン」
「冷静になれ。いい子だろ、ダイダイ」
「だって…こいつが…」
「お前の言いたいことは、分かってるから、な、落ち着け」
「…分かったよ」

振り上げた拳を大喜が降ろした。

「組長、説明をして下さい」
「しないとは、言ってないだろ。いいか、よ~く、聞け」

じゃじゃじゃじゃ~んと、自分で効果音を入れながら、勇一は懐中電灯で自分の顔をし下から照らした。
顔がかなり不気味に浮かび上がった。

「俺は、テメェらから逃げていた。だが止める。しでかした過去の過ちを指だけで済まそうとしたのが、間違いだった。詫びと償いは違うと勝貴に叱られた。全くもって、その通りだ。だから現実を受け止め、俺がテメェらの恋のキューピットになってやる」

どうだ、と言いたいことを言い切った勇一は満足げだ。

「…あのう、組長、失礼ですが…今のがこの部屋に侵入したことについての説明でしょうか?」

佐々木が恐縮気味に勇一に訊ねた。

「ああ」
「…恋のキューピットって俺の耳は聞こえたけど…オッサンにもそう聞こえたか?」

今度は大喜が佐々木に訊ねた。

「…聞こえた。…組長、恋のキューピットと、仰有いましたか?」
「言った。それこそ、今、俺がここにいる最大の理由だ」
「…オッサン、…オッサンの度の越えたロマンティストの原点は…もしかして、こいつじゃねえのか? …ダメだっ、我慢できない…いい年した中年男が、恥ずかしげもなく『恋のキューピット』って…、今時、女でも言わないぞ…ヤバイ、…ヒットだ…いいよな、笑ってもいいよな…」

腹を押さえた大喜がクッ、クッ、クッと苦しそうに前屈みになった。

「ダイダイ、もう、笑ってるじゃないか」

佐々木が変に冷静にツッコミを入れた。