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「ぐ、る、じ、…ッ」
襟元を締め上げられた勇一の顔があっという間に赤くなる。
「そうですか。そうなんですね。最低だと何度も思うことはありました」
「それは正解。兄さんは最低だから。潤にあんな残酷なことができるんだから」
横から黒瀬が数年前の出来事を持ちだしチャチャを入れるが、潤の視線と手は勇一から動くことはなかった。
「それでも時枝さんをこれ以上哀しませるようなことはしないと信じていました。いざとなったら頼りになる人だと思っていました。それなのにっ!」
赤かった勇一の顔が紫に変わり、白目半分の恐ろしい形相に変わる。
「ふふ、潤が兄さんを殺してる。兄さんが死ぬのは構わないんだけど、潤が殺していいのは私だけだから」
聞き捨てならない内容が含まれていたが、興奮状態の潤の耳には届かなかった。
黒瀬の手が勇一の呼吸を妨げている潤の手に伸びる。
「残念ながら浮気じゃないよ、潤。昨日、大喜が誰に連絡をとろうとしてた? 浮気だったら今の時枝に話すわけないと思わない?」
と言いながら黒瀬が潤の手を掴み勇一から離す。
「ゴホッ、ホッ、ゴホッ…河が見えたぞ…」
「その河を一人で渡ると時枝に恨まれますよ。渡るときは二人一緒にどうぞ」
「黒瀬、河の話なんかどうでもいいから説明!」
潤が黒瀬に詰め寄る。
「案外、武史も尻に敷かれてるな~」
「あたり前でしょ? 潤の可愛いお尻に毎晩敷かれている幸せを惚気て欲しいですか?」
「黒瀬! 説明!」
「残念ながら、私は何も聞いてないから説明できることはないよ。だから推測。浮気じゃないことは確か。したとしても避妊しない遊び方を『桐生勇一』ならしない。だけど…この人、『桐生勇一』じゃないおバカな期間があったから」
「…嘘だろ…その間に…女の人と?」
「自分が分からない俺に尽くしてくれた女がいたんだ…短期間だが一緒に暮らしていた」
「時枝さんがいるのに!」
潤がまた勇一に飛び掛かろうとしたが、黒瀬によって阻まれた。
「いなかったんだよ、潤」
黒瀬が潤を抱きしめる。
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