ルーシーに首ったけ⑤(その男激震番外編)

「てめぇ、誰のケツを蹴ってやがる!」
「頭の悪いクソ組長のケツ」

桐生組若頭佐々木と同棲中の大森大喜、通称ダイダイが組のトップ相手に啖呵(たんか)を切る。

「殺されてぇのか」
「時枝さんのためならそれも仕方ねぇよな。クソ組長がオッサンと違ってアホだから」

オッサンとは同棲相手の佐々木のことだ。
時枝さん、とは株式会社クロセの元社長秘書で、桐生組組長の勇一の伴侶にして、訳あって身元を隠してルーシーとなっている時枝勝貴のことだ。
という登場人物の説明は今更なので、後出組の説明は割愛させていただく。
そういえば、本日三月三日(←イベントが3月3日でした)は、株式会社クロセ代表取締役社長、黒瀬武史の誕生日である。
どうして黒瀬が主役じゃないの? という声が聞こえてきそうだ。
理由は一つ。
武史の誕生日に起きることは決まっているから、題材にはならないのである。
愛する嫁の潤を過度に過激に愛してあって誕生日がトロトロ、ネチャグチャ、ァア~~~ン、という水音と嬌声で終わることは誰もが予想できるからだ。

「クソだのアホだの、その口を縫(ぬ)いつけてやるぞ」
「裁縫できないくせに」
「ば~か、俺は手先が器用なんだ。縫い物は得意なんだよ」
「何の自慢? 大人気(おとなげ)ない」
「うるせ~。俺は多忙なんだ。ガキを相手にしてる暇はね~」
「いかせね~ゾ」
「はぁあ?」
「時枝さんのところにはいかせねーッ」

ドンと体当たりされ、不覚にも勇一が畳の上に倒れる。

「ってぇ、このクソガキ!!!」

倒れた勇一の上に、大喜が馬乗りになった。

「てめぇが何度もあの店に足を運ぶと、時枝さんの危険度が上がるっていい加減学べんだらどうなんだ! 幾ら携帯をプリベイドにしたり、家電使ったり、盗聴、盗撮防止対策とっても、てめぇが付けられたり、贔屓(ひいき)の女がいると思われたら、ルーシーが時枝さんだってバレる確率が高くなるだろうが!」
「うるせ~。そんときはそん時だ。どこかで一旦ケリ付けなきゃならない問題だろうが!」

勇一が大喜を腹筋を使って振り落とし、今度は勇一が大喜の上に乗り、手首を押さえつけた。

「不本意だが、俺はお前の仕事ぶりは認めてるんだよ。てめぇが頭使って警戒体制を敷いてくれてるから俺は安心してるんだ。大丈夫だ。途中何軒も経由して俺だと分らないようにする。今日は最終的にはアイドルオタクだ。ヲタ芸も習得済みだ」
「ヲタ芸覚える暇あったら、別のことに時間使え! ヘボ組長!」

勇一の下で大喜が暴れる。

「騒々しい。一体何事だ……」

大喜を探していた佐々木の目に、信じがたい光景が映る。
抵抗する大喜とそれを押さえつける勇一。
俺のダイダイが襲われる! 
佐々木の脳が咄嗟に判断した。

「コノヤロォオオオッ!」

左目に佐々木のパンチを浴び、大喜の上から転落した勇一が、顔を押さえながら立ち上がったときには、大喜と佐々木の姿はなかった。
コレはマズイと大喜が怒れるゴリラを連れて逃げたのだった。

★★★

「今日の営業は終了しました。お帰り下さい」

通常の営業時間はとっくに過ぎている。
わざわざ時間外の「特別客」の為に化粧も落とさず待っていたルーシーだったが、その特別客の姿を見た瞬間、開けた扉をバタンと閉めた。

「客を差別したら駄目なんだぞぉぅ。ぼくは君に会いに来たんだぞぉう。君のために、ダンスも作ったんだぞぉ。みて、このペンライト! 開けてくれないなら、ここで踊るから」

開けるつもりはなかった。
本気で追い帰すつもりだった。
しかし、不本意ながらも開けざるを得なかった。
ルーシーの名を連呼するだけの歌なのか叫びなのか分からない、兎に角、近所迷惑甚だしい騒音が届いたからだ。
BARリリィの扉が開く。中から白い腕だけが伸び、騒音の主を中に引きずり込んだ。

「世のオタクのお兄さん方に謝れ!」
 
ルーシーが自分のウィッグを頭からとり投げつけた。
すでに声と口調は時枝だ。

「短髪のルーシーも最高に可愛いぞぉ。それ、可愛いぞぉ」
 
黒縁メガネ、ダブッとしたケミカルジーンズに赤系チェック柄シャツ、背中にぼろぼろディバッグの男が、足を広げ、手にペンライトを持ち踊り出す。

「止めろ。そして全部脱げ!」
「ぼくの裸をみたいルーシー、ルーシー、最高、ルーシー、バンザ~~~イ」 
 
まだ踊っている。
だめだこりゃ、とルーシーが店の奥に引っ込み、手にすりこぎ棒と包丁をもって戻ってきた。

ダイダイです。次は金金曜日に更新するらしいです。めん棒ではなくすりこぎ棒…ルーシー、さすがです。 ランクに参加中です。下のランクバナー(1)(2)で応援〔ポチ〕頂ければ幸いです。

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